#945 「パン入門〈改定2版〉井上好文著」③・・・気泡のコントロール
気泡が小さいパンは、軽いソフトな食感、長い賞味期限、ホールセールベーカリー向けといった特徴があるのに対し、気泡が大きいパンは、重い食感、短い賞味期限、リテールベーカリー向けであることがわかりました(#944)。では外観は全く同じなのに、なぜ気泡の異なったパンができるのか、つまりどうすれば気泡の大きさをコントロールできるのかに着目します。
①ミキシングの程度によるコントロール
気泡の原点(気泡核)は、ミキシング時に生地中に抱合された空気が分散して形成されます。よって気泡数の第1のコントロールポイントは、ミキシング時にどの程度の空気を抱合するか、つまりミキシングの程度が高いほど気泡数が増加します。以下、3つの代表的なパン生地を比較します。
(A)フランスパン(手捏ね)・・・ストレート法を使用し、生地が繋がった時点でミキシング終了。
(B)ストレート法食パン(手捏ね)・・・(A)よりミキシングの程度は高く、厚めの膜状に伸ばせる時点でミキシングを終了。
(C)中種法食パン(機械練り)・・・最大限のミキシングを行い、生地が薄膜状に伸びるまでミキシングを継続。
この3つをミキシングの程度順に並べると(C) > (B) > (A)となり、ミキシングの程度が高いほど空気の抱合機会が増加し、気泡数が増加します。実際、3つの生地比重を比較すると、(A)1.20g/㎤ > (B)1.17/g/㎤ >(C)1.12g/㎤ となりミキシングの程度が高松ほど空気の抱合量が増加するために軽くなります。そして空気の抱合量が多くなるほど空気が分散し形成される形成される気泡核が増加します(下画像参照)。つまりフランスパンの噛み応えの強い食感や中種法食パンの軽いソフトな食感は、ミキシング方法によって決定されるわけです。
②生地の薄層化によるコントロール
成形時における「生地の薄層化」も気泡構造に大きく影響します。よって薄層化の程度の違いによっても焼き上がったパンの食感は大きく異なります。ミキシング後、約10分が経過すると酵母が生成する二酸化炭素は生地中の水に飽和状態になり気泡核への気化が始まります。その後、気泡の膨張が進行すると同時に、生地全体が膨張していきます。そしてパンチ、丸め、成形工程において更に外力が加えられることで、気泡が捻られて分割され、気泡数が増加します(下画像参照)。このとき生地をどの程度薄く伸ばすのかが(薄層化)気泡数の重要なコントロールポイントとなります。
モルダーとは生地をロ ーラーで圧延しそれをカーリングネットで巻き取る成形装置のことです(下図参照)。ここで全く同じ生地3個を用意し、異なるロール間隙(A)10mm、(B)7.5mm、(C)5mmでモルダーに通して、生地を圧延します。ロール間隙が狭くなるほど生地は薄く長く圧延され薄層化が進みます。このとき3個生地は、形が異なりますが、それぞれ手で締めながら3個とも同じ長さに延ばしてやります。するとこの3個の外見は全く同じに見えますが、気泡構造が異なります。よって焼き上げるとその断面は異なり、当然食感も違ったものになります。
つまり容易に想像できると思いますが、この3つの生地を焼くと、外観は同じにもかかわらず、(A)は、極めて噛み応えの強い食感、(C)は軽い食感、そして(B)はその中間ということになります。以上をまとめると生地の成形方法は、「パンの形をつくる」、「グルテンの弾性を高める」以外に、「気泡数をコントロールする」機能を担っています。よって手づくりパンの場合は、同じレシピであるにもかかわらず、作り手によって成形方法が微妙に異なるので、焼き上がったパンの食感も異なるのは自然なことです。