#603 「 讃岐うどん」やっと広辞苑に!

f603『広辞苑』は1955年に初版を刊行し、その後60年余が経ちました。そしてこの度2018年1月12日、10年ぶりの改訂新版となる第七版を刊行したことは、皆さんご承知のことと思います。出版元の岩波書店の言葉をお借りすると、いまや「国語+百科」辞典の最高峰、「国民的辞典」と言われるまでに成長しました。その余りに有名な辞典であるが故か、些細な(?)誤りもたちどころに大ニュースとなり、益々広辞苑の知名度は上がることとなりました。

さて、今回の改訂版では、「ブラック企業」、「LGBT」など、新たに約1万項目を追加し合計25万項目を収録しました。この今回追加された1万項目の選定にあたっては、収集した約10万項目の中から、その使用頻度、重要度などを総合的に評価されたと言います。ネット情報が氾濫する状況下、紙媒体の辞書を取り巻く環境が厳しいことは容易に想像できますが、一方でこのように物理的な証拠を残すことも意義あることだと考えます。

f603_2そして「とうとう」と言うべきか、「やっと」というべきか、満を持してうどん県の「讃岐饂飩」も、秋田の「稲庭饂飩」と仲良く、晴れて広辞苑の収録語に仲間入りしました。金比羅宮、栗林公園、小豆島、直島、瀬戸大橋といった有名処が第六版の時点で既に収録されていたことを考えると、遅きに失した感が無きにしもあらずではありますが、ここはうどん県の住人としては、素直に嬉しいです。さて肝心の説明はといえば、「さぬきうどん【讃岐饂飩】香川県特産のうどん。麺はこしが強く、太め。」と至って簡潔明瞭で若干拍子抜け気味ではありますが、とにかく嬉しいです。

で、折角讃岐うどんは「こしが強い」と説明されているので、そのコシについて改めて触れてみたいと思います。最初に思い浮かべるのは、ゆで上げ直後のうどんの水分勾配でしょう(#274)。つまりゆでた直後のうどんの表面付近の水分は、80%以上になっているのに対し、中心部分は40~50%です。よってゆであげ直後のうどんを噛んだとき、最初は軟らかいけれど、中心部分はしっかり感があり、この水分差が讃岐うどんの一つの特徴です。「軟らかい中にもコシがある」という一見矛盾した表現のようですが、これはこの水分格差が原因です。

ところでコシのあるうどんもゆでた直後から、水分移動が始まります。水は高いところから低い所へ流れるのと同様、水分の多いところから低いところへ時間と共に移動し、水分が均一になるとコシがなくなったと感じる人もいます。このコシを重要視して、ゆでて15分以上経ったうどんはださないという厳しいお店もあるやに聞いています。ただ個人的には、このコシも大事ですが、うどんそのものの食味は更に重要だと考えています。いくら食感が良くても、味がないと、砂を噛むようで、力が入りません。

またうどんを噛んだ時に、跳ね返りを感じるのは、小麦粉特有のグルテンも影響しています。グルテンは小麦だけにしかないタンパク質です。弾性をもつグルテニンと粘性をもつグリアジンが、水と一緒になって粘弾性を持つグルテンとなります。グルテンは、活性化状態では、チューインガムのように自由自在に加工できますが、加熱すると失活し、固まります。失活したグルテンは、かまぼこのような食感で、これもうどんの食感に寄与しています。このグルテン特有の食感を体感するには、蕎麦と比べるのも一案です。十割蕎麦は噛んでも、跳ね返りを感じませんが、これは蕎麦にはグルテンがないからです。さて次回の改訂版では、「さぬきの夢」や「うどん県」といった単語も是非追加収録してほしいところです。

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