#576 時間栄養学

f576よく夜食を食べると太ると言われます。もちろん通常の食事に加えて余計にカロリーを摂取するので尤もです。では全く同じ内容の食事を通常の夕食時間である19:00、そして就寝前の20:00に摂る場合ではどちらがより太りやすいでしょうか。摂取カロリーは同じなので、「どちらも変わらない」と答えるのはごもっともです。しかし実際には、同じ内容の食事でも、摂取時間の違いよって、「身の付き方(太り方?)」が異なるようです。

確かに以前から、「うどん一杯はうどん一杯」なので、お昼であろうが夕方であろうが、夜中であろうが、摂取カロリーは同じなので、身の付き方は同じだろうと漠然と考えていましたが、どうもそうではないらしいのです。この食事の量や内容だけでなく、「いつ」食べるかについて着目した学問を「時間栄養学」と言います。業界紙(製粉振興2017.5月号)の「時間栄養学とは(高橋将記氏)」なる記事に目が止まり、興味深く読んだので簡単にまとめてみました。

私たちの体内には「概日時計(がいじつどけい)」と言われる「体内時計」があり、これが時間栄養学と深い関係があります。この体内時計は、睡眠・覚醒サイクル、摂食行動における消化・吸収・代謝サイクルなど様々な生体機能調整に関わっています。ただこの体内時計の周期はほぼ24時間、正確には24時間より少し長く、実際のカレンダーの1日とはビミョーにずれています。そこで食事や光といった外的要因により、体内時計を1日24時間に調節することを「同調」といいます。

「同調」を実現するには、朝食が重要な役割を果たします。朝食は単にエネルギー摂取だけではなく、朝食を摂ることで体内時計がリセットされ、同調が実現されます。その結果、エネルギー代謝が活性化し、ホルモン分泌を正常に保つことが可能になります。一方、夜食は体内時計を遅らせるだけでなく、脂肪合成が高まる時刻に食事を摂取することで肥満を誘発します。よって毎日朝食を摂取し、夜食は就寝よりできるだけ早い時間に摂取することが、望ましいと食生活であると考えられています。

「うどん一杯」のカロリーはいつも同じですが、時間栄養学に基づくと、このカロリーの「身の付き方」が異なってくるのです。マウスを使った実験で、摂取カロリーが同じという条件下では、朝食を多く摂取した方が、体重増加が抑制されることが示されています。これは高脂肪食を朝食に摂取する方が、その後の活動により脂質を消費する時間が長くなり、消費カロリー量も高いためであると考えられています。

ヒトついては、次のような例があります。肥満女性を対象に、1日の摂取エネルギーは同じ条件で、朝食を多く食事を摂取する群と夕食に多く食事を摂取する群とを12週間比較した結果、前者の群において体重減少、腹囲減少、耐糖能異常の改善が顕著であると報告されています。つまり夕食より朝食のウエートを大きくした方が、ダイエット効果があるということです。

時間栄養学と同様、「いつ運動するか」について着目した学問を「時間運動学」といいます。朝と夕方の持久性運動について比較すると、夕方の運動の方が効率的であるとの結果がでています。また筋トレについても夕方の筋力トレーニングの方がより効果的です。食事や運動について、たとえ総量は同じであっても食事のタイミングや運動の時間帯によって、その効果が異なるという事実が実証されたことには、びっくりです。時間栄養学や時間運動学というと何やら難しそうですが、簡単にいうと単に規則正しい生活を実践するだけのことです。正しい食生活、適度な運動、そして規則正しい生活、この3つが健康生活を実践するためのポイントになります。