#533 「さぬきの夢」生産振興について思うこと

f533「さぬきの夢」は香川県で耕作されているさぬきうどんのための小麦です。現在は、年間5,000㌧程度が収穫されていますが、人気が高くまだ十分な数量が供給できない状態が続いています。この人気の高さが、現在「さぬきの夢」が日本一高価な小麦銘柄となっている主たる理由です。日本一ということは、世界一高い小麦でもあります。そして経済の原理原則でいえば、価格が上昇すれば、作付面積も増えそうですが、実際の耕作面積はここ数年1500ha程度の横ばい状態が続いています。

ではなぜ耕作面積が増えないか?耕作面積が増えない要因は、小麦が専業農家の主要耕作作物ではないからだと個人的には考えています。わかりやすくいうと、小麦耕作では十分な収入が得られないからです。

具体的な例を挙げます。田園地域に位置する弊社の近隣には大規模小作農が何軒もあります。大規模小作農は、耕作放棄地を積極的に借り上げ、耕作面積を増やし続けています。また東南アジアからの研修生を積極的に雇用し、日本人のリーダーに研修生数名が1つのチームを編成し、1チームで年間何十ヘクタールを管理するというスケジュールを組んでいます。

耕作作物は、人参、レタス、ブロッコリ、いも、ダイコンといった蔬菜、つまり野菜です。理由は明快で反収が上がるからです。聞くところでは、砂地で平均2.8毛作、反収が年間150万円程度、一方水田では平均1.5毛作、反収70万円が目安と聞いています。つまりこれ位の収益性がないとアグリビジネスとしてのビジネスモデルは成立しないようです。

一方、小麦の方はといえば、世界一高価な「さぬきの夢」でさえ、流通価格がトン当たり6万円、そして1反当りの収量を300kgとすると、単純に掛け算をして反収は2万円程度にしかなりません。もちろん生産コストの違いや補助金の有無といった条件は異なりますが、それでも小麦と蔬菜と比較すると、反収にして何十倍という開きがあります。よって麦類は、専業農家の中心的栽培作物にはならず、それが耕作面積拡大につながらない大きな要因だと思います。

日本最大の小麦産地である北海道では、専業農家によって年間何十万トンという小麦が生産されていますが、香川県の場合は事情が少々異なります。香川県ではその多くが兼業農家によって耕作されています。耕作理由も様々で、大別すると次のようになるかと思います:
①「本物のさぬきうどん」を打ってもらいたいという純粋な動機による小麦栽培。
②放置すると雑草が生え周囲に迷惑がかかるため「環境保全」目的の小麦栽培。
③補助金目的の小麦栽培。
そして当然ではありますが、①のモチベーションをもっていただけたら、「さぬきの夢」は質・量共に更に向上するはずです。

「さぬきの夢」については、単純に金額だけで割り切れないところがあります。現在、地方はどこも地盤沈下に悩み、地方創生・活性化の道を模索しています。そして香川県の切り札はなんといっても「さぬきうどん」です。現在夏会期開催中の瀬戸内芸術祭といったアート県も重要ですが、やはり何と言っても「うどん県」が一番の呼び水となります。そしてうどん県を標榜するには、良質の香川県産小麦は不可欠です。つまり「「さぬきの夢」の振興⇒さぬきうどんの更なるイメージアップ⇒周遊人口の取り込み⇒地方創生・地方活性化」という好循環が想定できます。

このように考えると香川県創生の鍵は「さぬきの夢」にあることがわかります。またその経済波及効果は何百億円になると言っても過言ではありません。よって小麦耕作者の方々には、事情をご理解いただき、郷土香川創生のため、「さぬきの夢」の生産振興に取り組んでいただけますよう切にお願い申し上げる次第です。