#514 2016年製粉講習会・・・世界の小麦の流れ

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東南アジア各国はGDPを伸ばし、小麦需要が増加中!

先日、毎年恒例の製粉講習会が開催されました(#465)。これは世界の小麦並びに製粉業界の過去一年間を振り返り、主要な出来事をコンパクトそして分り易く説明してくれる貴重な講習会です。講師はお馴染みの小麦粉博士こと長尾精一先生。「今年もこうやって、皆さんの前でお話をすることができて嬉しいです」という御挨拶で始まるお話にはいつも元気を頂きます。先生は御年80歳を迎えられ、益々肌艶良好、矍鑠とされています。しかし毎日1万歩を歩き、健康管理には重々配慮されている事実を知れば、それも当然といえば当然です。

そして何より我々が嬉しいのは、日本の製粉産業の第一人者である先生が、ご自身でもって健康生活を実践されているという事実です。一億総グルメ化し、飽食の時代と言われる現在、成人病の代表である糖尿病は予備軍を含めると2000万人以上と言われています。そして成人病予防のため、様々なダイエット法が提唱され、中には少し極端なものもあるように感じます。しかし先生が実践されているのは、ごく標準的な小麦粉を基本とした食生活です。要諦は食べ過ぎず、適度な運動を行うことに尽きると思います。

さて前置きが長くなりましたが、講習会の内容を簡単にご報告。といっても内容が多岐にわたるため、今回は世界の小麦の流れをご説明いたします。小麦の生産は年々伸び、今年はどうやら3年連続7億t超の小麦が生産されそうです。しかし耕作面積はほぼ限界に近づき、今後はGM小麦(遺伝子組み換え)でも出現しない限りこの辺りが上限であろうと言われています。7億tのうち食用にまわるのは4.84億tなので、世界人口72億人で単純に割り算して、一人当たり67kgとなります。

7億tの小麦のうち、貿易に回るのは全体の20%程度の1億5000万t。2015/16年の予測では、輸出国は、輸出余力が大きい順に、①EU(2980万t)>②ロシア(2340万t)>③アメリカ(2080万t)>④カナダ(2060万t)>⑤オーストラリア(1760万t)>⑥ウクライナ(1460万t)>⑦カザフスタン(650万t)>⑧アルゼンチン(640万t)。そしてこれら8ヶ国の合計は1億4000万tとなり、これで世界全体の輸出量の90%以上を占めます。

一方、輸入地域は、多い順に、①アフリカ(4660万t)>②極東アジア(4210万t)>③近東アジア(2420万t)>④南アメリカ(1370万t)>⑤北・中アメリカ(1180万t)と続きます。日本は、今年度570万tを輸入予定で、これは国内需要の90%に相当します。本来は小麦の自給率100%が理想ですが、日本はモンスーン気候であるため、小麦の耕作には不適で、よって大部分を輸入に頼っているのが実情です。

現在、私たちは小麦をアメリカ・カナダ・オーストラリアの3カ国から輸入しています。ただ一口に小麦の輸入と言っても、コンビニで弁当を買うような訳にはいかず、色々満たすべき条件があります。具体的には、①小麦の品質②輸出余力③安定性が挙げられます。①は現在1億総グルメ化の日本には不可欠で、日本は世界最高品質の小麦を輸入しています。パン用はアメリカ、カナダ、麺用はオーストラリアといった具合です。また②は輸出する国に輸出余力がないと輸出できません。そして③は毎年安定的に輸出できることが必要不可欠です。

実は数年前、世界的な干ばつで穀物不足が懸念されたとき、現在の輸入国3ヶ国に代わる小麦輸出国がないかと検討しましたが、上記3条件を満たす国はありませんでした。ですから私たちが毎日、ケーキ、パン、うどんといった小麦粉ライフをエンジョイできるのも、アメリカ、カナダ、オーストラリアのお陰です。

ただ最近は他の東南アジア諸国もGDPが上昇し、生活が豊かになった結果、良質小麦の需要を除々に増やしつつあります。また1億3000万tの需要がある中国も、現在は国策で輸入小麦を100万tに制限していますが、一度自由化されてしまうと、一気に世界の需給バランスが崩れる可能性もあります。製粉産業に携わる人々は、いつもハラハラドキドキしながら、世界の小麦の生産及び需給動向を注視しています。

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世界の小麦生産は3年連続7億t超を達成。しかしこの辺りが限界か?

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中国の需要は1億3000万t。もし中国が本格輸入を始めたら需給バランスが一変するかも・・・。