#469 2015年オーストラリアの小麦事情

f469#465では「世界の小麦事情」をさっくりとご説明いたしました。現在、全世界で生産される小麦は7億tでそのうち貿易に回るのは、その20%程度の1億5000万tです。そして輸出余力が大きい順に、EU(2970万t)>アメリカ(2500万t)>カナダ(2330万t)>ロシア(1850万t)>オーストラリア(1830万t)>ウクライナ(1150万t)>アルゼンチン(650万t)>カザフスタン(600万t)となります。そしてこれら8ヶ国の合計は1億4000万tとなり、これで世界全体の輸出量の90%以上を占めます。

EUを除くとオーストラリアは、アメリカ、カナダ、ロシアに次ぐ4番目の輸出国ということになります。ただロシアは、干ばつに見舞われた2010年には、プーチン大統領が小麦を含む穀物輸出をストップしました(#264)。それとは対照的にオーストラリアも2006年2007年と2年連続で深刻な干ばつのために生産量が激減しましたが、輸出をストップすることはありませんでした。尤も干ばつのために品質に多少バラツキが生じましたが、天候不順に品質が左右されるのは農作物の宿命です(#143)。

いずれにしてもこのような経緯を考慮すると、小麦の輸入国にとっては、ロシアよりもオーストラリアの方をより信頼するのは仕方のないことです。現在日本はアメリカ、カナダ、オーストラリアから小麦を輸入していますが、それはこれら3国の小麦の品質もさることながら、その抜群の政治的安定度からして当然の結果だと言えます。前回、大きな干ばつが起こり、小麦価格が高騰した時、農水省はこの3国を代替できる高品質の小麦と輸出余力をもった潜在的な輸出国がないか検討しましたが、結局この3国に勝る輸出国はありませんでした。

オーストラリアの小麦生産量は、世界全体の4%、量にして2,400万tになりますが、その生産量の70%が輸出に向けられます。そして輸出国であるオーストラリアからすると、小麦は重要な輸出農作物であるため、小麦を沢山買ってくれる顧客(国)は当然重要です。しかし沢山買ってくれるだけでは、充分とは言えません。下の表は過去10年間の輸出先国別の輸出量の推移です。インドネシア、イラク、ベトナムなどは、近年日本よりも沢山買っていますが、年によってかなりバラツキがあります。それに対し日本は、毎年安定的に100万t前後の小麦を買っています(参考資料:「最近のオーストラリアの小麦の需要動向について」by玉井哲也氏)。

つまり小麦の輸出国にとっては、まとまった量を毎年安定的に購入してくれる国が、真の優良顧客で、その意味において日本は正に優良顧客といえます。またこれはカナダや米国についても同様で、日本は毎年まとまった一定量を購入してくれる、安定度が高い優良顧客です。こう考えると小麦輸出国にとって、日本は世界一安定度の高い、優良な顧客ということになります。

ところでオーストラリアの小麦輸出は、従来AWB(Australian Wheat Board)という公的機関が独占的に行ってきましたが、2008年には小麦輸出販売法が成立し、AWBの輸出独占はなくなりました。更には2012年末に、小麦輸出は完全に自由化されました。そしてこれが影響しているのかどうかは不明ですが、実需者(製粉会社)からみると小麦の品質は多少劣化したように感じます。「自由化されて品質が劣化する」というのは一見矛盾のように思えますが、個人的には次のように解釈しています。

つまり公的機関であれば、採算を考慮する必要はなく、とにかく規格を満たしている良質の小麦を輸出しようとします。しかし民間であれば、規格はパスしなければなりませんが、規格ぎりぎりの小麦の方が、より多くの収益を見込めます。必要以上に品質を高めるとそれだけコストアップになるからです。これが事実がどうかは不明ですが、オーストラリアの小麦は一昔前と比べると確かに、「麦わらや他の穀物」といった小麦以外のもの(私たちは夾雑物とよんでいます)が、基準値ぎりぎりまでに増えたような気がします。

f469_2

 

f469_3

 

f469_4