#449 手打ちうどんにおける小麦粉と水との係わり・・・③

f449②足踏みは、「捏ねる作業」のことで、この工程においてグルテンが充分に引き出されます。ここで気をつけたい点は、足踏みが不十分であるのは勿論問題ですが、逆に「足踏み」をし過ぎても、グルテン繊維が切れて逆効果となる点です。実際の作業では、生地を暫く踏んだ後、折り返して、足踏みを行い、この作業を何度が繰り返しますが、その生地を折り返したときに、「生地が裂け始める状態」が足踏み作業の終了の目安と考えればよいと思います。

③熟成が不十分でも、満足なグルテンは生成できません。熟成は時間をかければ良いというものではなく、温度が密接に関係します。つまり夏場の暑い時期は熟成が速く進むので、熟成時間は短くてもよく、逆に寒い冬期においては長めの熟成時間をとります。10℃以下では、ほとんど熟成は進まないので、冬の寒い時期は、一晩放置しても熟成はほとんど進まず、よってグルテンは不十分であり、コシのあるうどんは、できません。

この温度に着目すれば、この熟成工程をコントロールすることも可能です。例えば一度に多くの生地を仕込んでおいて、忽ち使用しないものは冷蔵庫に保存すれば、その時点で熟成を止めることができます。よって翌日取り出し、常温でしばらく放置させ、そこから作業を再開することができます。但し再開時には、必ず生地が常温に戻っていることを確認してください。実は先日も、「加水も練りも熟成も充分にできているのに、生地が硬くて延ばせない」との問い合わせがり、聞いてみると練った後の生地を冷蔵庫に放り込んでいたのが原因でした。

角が立ったコシのあるうどんを打つには、小麦粉に含まれるグルテンを十二分に引きだし、そのグルテンの立体網目構造を均一に形成する必要があります。グルテンが存在しない部分は、ゆでている途中ででんぷんが溶け出し、うどんの角がとれてしまい、表面の荒れたコシのないうどんにゆであがってしまいます。うどんが切れるとか、艶がないといった問題が生じた場合には、是非、この3つのポイントを再確認してみてください。

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【5】ASWと「さぬきの夢」の比較
f449_3ここで現在うどん用小麦の定番となっているオーストラリア産小麦ASWと香川県産小麦「さぬきの夢」をのグルテンを比較してみます。両者10gずつをとり、グルテンを採取してみたところ、ASWからは2.52g、そして「さぬきの夢」からは2.09gが採れました(画像)。つまりASWのほうが20%ほど多くのグルテンを含んでいることがわかります。これはうどんをくっつける接着剤が多いことを意味し、ASWの方がそれだけうどんが切れにくく、また打ちやすいことを意味します。よって「さぬきの夢」でうどんを打つ場合には、加水量を正確に測り、作業手順にも充分に気を遣う必要があります。

【6】備考
今回は、グルテンに着目して、小麦粉と水との関係について説明いたしました。簡単にまとめると、小麦粉に含まれるタンパク質が多いと、それだけグルテンも多くなる。グルテンはうどんの接着剤の役割を担うので、グルテンが多いほど、うどんは繋がり易くなり、うどん打ちは簡単になります。またグルテンは自重の2倍の水を保持することができるので、タンパク質が多いほど加水量も多くなります。更にはグルテンが多いほど水に対する緩衝力が大きくなります。逆にいうと、タンパク質が少ない小麦粉は、水加減が難しく、うどん打ちにも技術が要求されることを意味します。

最後に一つ加えておきたいことがあります。グルテンが多いとうどん打ちが簡単になるのは事実ですが、それと「うどんの食味」とは別の問題だということです。小麦粉の主成分は70%以上を占めるでんぷん質なので、この部分が食味に大きく影響するのは容易に想像できます。「さぬきの夢」での作業は多少の手間暇を要しますが、そのソフトな食感と、噛んだ後少し間を置いて拡がる仄かな甘味は「さぬきの夢」特有のものです。万人向けのASWと、多少手間暇はかかるがうどん本来の旨味を堪能できる「さぬきの夢」を用途に応じて打ち分けていただければ幸いです。