#410 うどんテイスティング・・・超極太うどん

f410H製麺所の社長Mさんは、ツアープロの如く、日本全国津々浦々を実演販売で飛び回り、さぬきうどんの普及に努めていらっしゃいます。その地道な努力が実ってか、H製麺所は「今や香川では知らない人はまずいない」と言われるメジャーな製麺所です。さてそのMさんから突然、「超極太うどんに適した小麦粉は何がいいですか?」と聞かれ、返答に窮しました。というのも、うどんはうどん、普通のうどんが上手にできる小麦粉が、極太うどんも上手くできると思うからです。

ただ異なる点もあります。太くなればなるほど、中心部分まで火が通りにくくなるので、ゆで時間が長くなり、このゆで時間の長さが食感に影響を与えそうです。それで「どの辺りの太さを検討されているのですか?」と聞いたところ、「う~ん小指位かな」とのお答えでしたので、かなり太いことに違いはありません(迂闊にもこの「小指くらい」というのが、ゆでる前なのか後なのかを聞くのを忘れました)。よって考えただけでは良くわからないので、以下の4種の小麦粉で試作することにしました。

①讃岐すずらん ・・・ 標準的な手打ちうどん用
②さぬきの夢  ・・・ 香川県産100%の小麦粉
③さぬき一番粉 ・・・ 作業効率を高めたうどん用小麦粉
④讃岐すずらん + さぬきの夢(50%配合)

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このうち③「さぬき一番粉」は、タピオカでんぷんがかなり入っている粉で、業務用として昨年秋に発売しました。讃岐すずらんに比べ、標準的な太さで、3分程度ゆで時間が短縮される製品です。タピオカが入っている分、風味は若干薄れますが、ゆで時間が短いことに加え、湯で延びも抑えられます。また機械製麺に適し、誰がやってもある程度の再現性があるため、その意味で打ち手を選ばない小麦粉ともいえます。ただタピオカでんぷんに対してはアレルギーをお持ちのうどん屋さんもいらっしゃるので、この辺りは好みが別れるところです。試作4点は、弊社営業を含む5名でテイスティングした結果、超極太うどんの一般的な傾向として、次の2点が挙がりました:

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(1)餅のような食感
太いために、かなりの時間ゆでても、中心部分は充分に糊化されていない状態になりやすく、よって噛むとどうしても従来のうどんの食感というよりも、餅のような食感に近くなります。

(2)全体に塩辛くなり易い
中心部分が糊化されていないということは、その部分の塩は留まったままになります。つまり内部の塩が溶け出しにくく、それだけ塩辛くなります。

そしてテイスティングの結果、4種類の中で極太うどんに適していたのは、「讃岐すずらん」という結論になりました。30分ゆでても、表面は荒れずに、しっかりと滑らかさを保持。また風味も感じられ、一番好感がもてました。一方、「さぬきの夢」は、味は良いけれど、表面の肌荒れや、「べとつき感」が気になりました(極端に太くすればの話で、普通は全く問題ありません)。理由は、グルテン組織がASWに比べて弱いため、長時間ゆでると、表面が溶けやすくなり、その結果、表面が荒れ、噛んだ時に「べとつき感」が強調されるからだと考えます。普通サイズのうどんであれば、申し分ない「さぬきの夢」ですが、極太うどんだと少し状況が変わるようです。

ところで「塩水濃度を上げるとゆで時間が短縮できる」という表現を良く見かけますが、個人的にはこの感覚がしっくりきません(#235)。よって「塩水濃度を上げれば、極太うどんもゆで時間を短縮できるじゃないか」と考えるのが自然ですが、これは個人的にはお薦めできません。理由は、(2)で説明した通り、中心部分までお湯が浸透しにくいので、糊化されにくく、よって塩分が残り余計に塩辛くなるからです。

太い方がうどんらしく見えるし、コシも強調されます。しかし物には限度というものがあります。うどんテイスティングでもなければ、こんな極太うどんを試作することは、まずありません(普通サイズのうどんであれば、どの小麦粉もそれぞれ特長あるうどんができます)。「過ぎたるは及ばざるが如し」、ほどほどに太いうどんが、さぬきうどんらしいと思います。