#257 「さぬきの夢2009」と「さぬきの夢2000」のグルテンの違い

今回は、「さぬきの夢2009」と「さぬきの夢2000」のグルテンの性質に着目してみたいと思います。ただその前に自分の整理も兼ねて、「さぬきの夢2000」の昨年と今年の収量についてまとめておきます。一見、関連ないようですがまったく関係がないわけでもないので、暫しご容赦ください。

次の表は昨年と今年の「さぬきの夢2000」の収量です。どちらも6000t近くの収量を予定していましたが、実際はかろうじて半分程度しか収穫できませんでした。国産小麦は天候などの影響を受けやすいので、毎年安定的に生産するのは難しく、これは国産小麦の宿命なのかもしれません。ただよく見ると内容は若干異なり、H21産は1等麦が90%だったのに対し、H22産は55%程度で、品質的には昨年の方が良好でした。この一因としては今年前半が低温で推移したことが挙げられます。つまり農作物の成長が遅れ、ジャガイモ、玉ねぎ、梅などは軒並み小振りで、小麦も同様に粒が小さくこれが1等麦比率低下の原因だろうと推測します。

H22産・夢2000 H21産・さぬきの夢2000
予定収量
5,690t
5,700t
収量
3,052t
3,150t
作況
53.6%
55.3%
1等麦比率
54.6%
90.0%

 

次の表は、弊社で製粉した昨年と今年の「さぬきの夢2000」および「さぬきの夢2009」のデータです。昨年と今年の夢2009(①と③)を比較すると、今年の灰分値が0.400とかなり大きくなっています。この数値が大きくなるとそれだけミネラルなどの不純物が多くなることを示し、うどんにしたときの色がくすんできます。つまり灰分値は、小麦粉のグレードの目安であり、この事実は今年の1等麦比率が低いことと合致します。では「夢2000の方はそれ程違いがないじゃないか!」と聞かれると、「たまたま製粉した小麦が1等麦主体だったのでしょうか?」という苦しいお答えしかできません。

材料名 ①H22・夢2009 ②H22・夢2000 ③H21・夢2009 ④H21・夢2000
製粉日 2010.9.17 2010.9.17 2009.9014 2009.9.12
水分 12.46% 13.30% 13.37% 13.38%
グルテン 24.2% 25.3% 27.2% 26.0%
灰分 0.400% 0.374% 0.363% 0.378%
タンパク 7.6% 8.2% 8.7% 8.2%
アミロ(Bu) 1390 1440 1400 1400

 

ところでここで注目してほしいのは、たんぱく値です(うどんに限るとたんぱく質とグルテンは同義語です)。今年の場合、昨年に比べてたんぱくが低く、特に夢2009にいたっては7.6と夢2000の8.2を下回っています。これまで「夢2000は味は抜群なんだけど、低タンパクのために作業性にやや難があり、よってうどんが切れやすい」ことが度々問題点として挙げられていました。よってたんぱく質の量だけに着目すると、夢2009は夢2000よりも更に低いので、正直「これはまずいなぁ!」と感じました。つまり「切れやすい夢2000のたんぱく質よりも更に低いということは、もっと切れやすいんじゃないか」と考えるのが自然です。

でも結論から言うとこれは誤りでした。試作した誰に聞いても、夢2000よりも夢2009の方が作業適性が良いというのです。そしてこの理由として考えられるのが、グルテンの性質の違いです。つまり夢2009のグルテンは粘弾性が大きいのに対し、夢2000は少し柔らかくて脆いと考えられます。実際、両者の湿麩(グルテン)を採取して吊るしておくと、夢2000の方が長く垂れ下がって床についてしまったので、かなり軟らかいことがわかります(右画像)。鉄筋に喩えると夢2009の鉄筋は数は少ないものの、夢2000のそれより強度が強いといえば理解し易いかもしれません。

そこで私も素人なりに、「夢2000vs夢2009」を打ち比べてみました。するとやはり夢2009の方が、製麺適性が良いのです。生地はしっかりしているし、ゆでても夢2009の方が短麺が少ないのです(画像参照)。違いはそれだけではなく、生地を延ばすときにも実感できます。夢2000は生地が柔らかく、弾性が弱いので慎重に延ばす必要があります。私のような素人が、力任せに伸ばすとついつい薄くなりがちで、一旦薄くなった生地は当然厚くはなりません。するとうどんが画像でもわかるようにきしめん状態になります。熟練すれば、そのあたりの調節は造作のないことですが、素人さんにはなかなか難しい作業です。この辺りも夢2000が玄人向けと言われる所以です。いずれにしても夢2009になると、きっと誰もが上手に美味しいうどんが打てるようになるものと期待します。