#240 小麦と小麦粉に含まれる栄養素

小麦そのものはとっても小さな粒ですが、その構造は右図のように複雑で、実に多くのパーツから構成されています。ただ実用的には、胚乳(83%)、表皮(15%)、胚芽(3%)の3つに大別すれば十分です。また小麦には様々な栄養素が含まれていますが、その栄養素は小麦の部位によって異なります。そこで今回は小麦および小麦粉に含まれる栄養素について簡単にご説明いたします。

私たちが小麦粉と呼んでいるのは、主として小麦の中の胚乳部分であり、製粉するとは、一言でいうと小麦を砕いて、胚乳部分を取り出すことです。ただ小麦の胚乳の表面には表皮が「びっしり」とこびりついているので、その作業はそれほど簡単ではなく、「言うは易く行なうは難し」です。胚乳部分だけを取り出そうと思っても、どうしてもの表皮の断片が混じってしまうのです。小麦を挽いたときに残る表皮の屑のことを「?(ふすま、麦へんに皮と書きます)」と言いますが、近代製粉の技術向上は、このふすまの断片、つまり「ふすま片」の混入を如何に防ぐかにかかっていたといっても過言ではありません。

石臼で一気に挽き込み、ふるいにかけるとどうしても、ふすま片が小麦粉に混入します。そこで近代製粉では、小麦を少し割ってはふるいにかけて分別し、その中の大きな断片を更に割り、それをふるいにかけるといった、いわゆる「段階式製粉方法」を実践してきました。それにより小麦粉は従来に比べ、ずっと白くなり、その結果パンはふんわりとよく膨らむようになり、またうどんは滑らかな喉越しの良いものになりました。そして現在の小麦粉の栄養成分としては、「糖質72~75%、たんぱく質9~12%、水分14%」といったものが平均的なものになりました。

但し小麦粉の精製度を高めた結果、失われたものもあります。それは麩(ふすま)にふんだんに含まれている鉄分などの無機質、そして食物繊維がごっそり抜け落ちてしまったことです。小麦を丸ごと引き込んだ小麦粉のことを全粒粉(ぜんりゅうふん)といいますが、五訂食品成分表によると100g当たりに含まれる食物繊維は、小麦粉が2.7gであるのに対し、全粒粉は11.2g、また鉄分は小麦粉が1.0mgであるのに対し全粒粉は3.1mgです。つまり小麦は小麦粉に対して、食物繊維は4倍以上、また鉄分は3倍以上含んでいることになります。

たんぱく質、脂質、炭水化物を三大栄養素、それにビタミン、ミネラルを加えたものを五大栄養素といいます。そして現在では更にこれらに食物繊維を加えたものを六大栄養素と呼んでいます。本来であれば食物繊維は、言ってみれば食べ物のカスであり、それ自体に栄養はないので栄養素とは言えませんが、現代人には必須ということで、敢えて第六の栄養素と呼ばれるようになりました。元々食物繊維に便秘防止の効果があることは、古代ギリシアのヒポクラテスの時代から知られていたそうですが、高精製度食品や高加工度食品ばかりを食べるようになった結果、現代の食生活では食物繊維が不足し、改めて脚光を浴びることになったのです。

食物繊維を多く摂取する簡単な方法は、小麦粉の代わりに全粒粉を使用すればいいだけのことです。しかし食品においては、機能性よりも食味が優先されます。つまり全粒粉だけではパンはごわごわして膨らまないし、食味も劣ります。うどんにすると、そばみたいに黒くて、食べると喉がイガイガします。よって100人に聞くと、100人皆が、きっと普通の小麦粉で焼いたパンや打ったうどんの方を選択すると思います。この食味と栄養素とのジレンマが現代食生活の一番の問題です。だから私たちは、ある程度意識的に必要な栄養素を摂取するようにしないといけないんですね。