#212 ベックラー製粉機

現在のロール製粉機の走りとなったのが、1588年のラメッリ製粉機でした。この製粉機の構造について少しだけ補足しておきます。次の図は、これを水平方向で切った断面図です。内部は、クランクに直結した、先をカットした円錐型ローラーがあり、これが回転するようになっています。そして供給された小麦は、回転するにしたがい、先端方向に押し出されます。

ここでポイントなのは、円錐型ローラーの側面の傾斜角度は、それを覆っている内壁のそれよりも若干大きいので、円錐ローラーと内壁はその先端部分のみで接していることです。よって粉砕は、この接している円周部分でおこなわれ、挽かれた小麦はその先端の開口部分から押し出されます。つまり両者が接している円周部分において、内壁側は静止した状態であるのに対し、ローラー側が回転するので、そこに「剪断力」が発生します。ラメッリ製粉機は、形状がローマ時代のアワーグラスミル(新着情報#189)の下半分に似ているので、これを参考にしたという意見もありますが、不自然でこじつけにすぎません。このアイデアはラメッリの時代に先駆者は存在せず、よってこれは彼のオリジナルに間違いないようです。

これ以外の手動式ロール製粉機といえば、1662年にベックラー(Bockler)が発明したものがあり、これはラメッリ製粉機よりも一層現代のロール式製粉機によく似ています。ベックラー製粉機については、詳細な資料がないので、断定はできませんが、粉砕は次のような仕組みでおこなわれているようです。回転するローラーは円錐形ではなくシリンダー、つまり円柱状で、クランクをまわすとローラーも一緒に廻ります。次にこのローラーを覆っているのは、それより一回り大きなシリンダーです。もしどちらも同じ中心軸なら、ローラーと内壁には常に一定の隙間が空いてうまく粉砕できませんが、ここでは中心軸をずらしてローラーが内壁に接するように設置しています(実際には僅かな間隙がありますが)。

よって粉砕はこの接している部分、つまり直線上でおこなわれます。ここでも接している直線部分の内壁側は、固定されているのに対し、ローラー部分側が回転するので、そこに剪断力が発生し、小麦を挽き裂く動作が発生します。しかもベックラー製粉機は、それだけに終わりません。奮っているのは、この粉砕した小麦が直ちにふるい機に送られ、そこでふるい分けられる点です。つまり手回しのクランクによって、ローラーだけが回転するのではなく、ふるい機も一緒に廻るのです。

ラッメリ製粉機が登場したのが1588年であるのに対し、ベックラー製粉機は1662年です。これだけの改良を加えるのに、100年近くもかかったことになりますが、技術革新が日進月歩の現在ではなかなか想像できません。しかし反面それだけゆったりと時間が過ぎていたことも事実で、なんとなく羨ましい気もします。いずれにしても、ラメッリによって考案された素晴らしい技術は、ベックラーやその他の人々に受け継がれ、その後の科学の発展に計り知れないくらい寄与してきたとのことです。理論を現場に落とし込み、試行錯誤をおこなうことが技術屋の常套手段になり、同様にそれが科学者の手法にもなりました。技術と理論がお互いに刺激しあい、切磋琢磨しながら、発展が加速されたのです。