#196 蕎麦やビーフンはなぜつながるのか?

今は昔、「小麦粉を水で練った生地が、自在に変形できるのはグルテンのお陰です。またグルテンは小麦粉だけにしか含まれない特別なたんぱく質です」という話を聞いたとき、「ふ~ん、小麦粉ってすごいなぁ!」と素直に感じ入りました。

しかしよくよく考えてみると、別に切れずにつながっているのは、うどんだけではありません。「蕎麦もそうだし、ビーフンだって、春雨だって小麦粉じゃないけれど、ちゃんとつながっているではないか!」っと。で、そのときは何か釈然としないものが残りました。だからきっと、同じような疑問を持っている方がいるんじゃないかとお察しします。そこで身近にある小麦粉以外でできている麺類は、どうやってつながっているのか整理してみました。

①そば
グルテンが含まれているのは小麦粉だけなので、そばにはたんぱく質はあっても、グルテンはありません。よって生地の状態での「つなぎ力」をだすために、普通は「つなぎ粉」として小麦粉を混ぜ合わせます。つなぎ粉を増やすほど作業性はよくなりますが、蕎麦の風味は当然薄れます(個人的にはどちらも好きですけど)。二八蕎麦は、20%の小麦粉をつなぎ粉として入れますが、つなぎ力を増すためにグルテンを多く含む強力粉を使用するのが一般的です。また十割蕎麦といってそば粉だけで作ることもありますが、この場合は練り水として水ではなく「お湯」を利用することが多いようです。理由は温度が上がり、でんぷんが糊化するからです。つまりこの場合は、「つなぎ力」として糊化したでんぷんを利用するのです。

②ビーフン・春雨・フォーなど
春雨の原料は、じゃがいもとか緑豆。ビーフンやベトナムのフォーは、基本的な原料は米粉です。つまりこれらの原料はじゃがいも、緑豆、米などのでんぷんです。これらもグルテンがないのででんぷんの糊化を利用します。最初にお湯で練り、粘りを出しながら生地を作ります。次にところてんをつくような感じで、押し出し機からでんぷん生地を麺状に押し出し、それを熱湯でゆでて糊化させ、固めます。つまりグルテンのないものは、すべてでんぷんの糊化を利用しているわけです。

小田聞多先生は、製麺方法を次に3つに分類しています:
(A):生地をひっぱりながら麺線にする方法 ⇒ 手延べ素麺など。
(B):生地を圧延し、平板状にして線切りする方法 ⇒ 手打ちうどんなど。
(C):穴の空いた型から生地を押し出し、線状にする方法(押し出し機の利用) ⇒ ビーフン、春雨など。

上記の(A)と(B)はグルテンの力が必要なので、小麦粉が必要です。また(C)はでんぷんの糊化を利用するのでグルテンは必要ありません。よってグルテンがあってもなくても、麺はできます。ただ、生地の状態で自由自在に成形できるのは、くどいようですがグルテンを持った小麦粉だけです。例えば、スイスにはZopf(ツォップフ)という三つ編みパンがありますが、これはパン生地を三つ編みにしてから焼き上げます。これもグルテンがあるおかげで、三つ編みという芸当ができるのです。

余談ですが、小麦粉価格上昇のためか、それとも米余りからか、最近「米粉パン」が話題になることがあります。しかし米粉だけではパンはできません。別途、小麦粉から抽出したグルテンを添加してやらないとパンは膨らまないからです。(米粉+小麦粉グルテン)で初めてパンができるようになります。しかし日本では米は小麦粉より高く、小麦粉グルテンも高価なので、結果として米粉パンは普通のパンに比べてかなり高いものにつきます。では米粉パンはずば抜けて美味しいかというと、それは個人の判断なのでなんとも言えませんが、米粉パンが普及するには、価格の壁が一番大きな問題であると考えます。