#168 小麦の価格

現在の小麦事情についてはこれまで、何度かご紹介しました。例えば:
新着情報#148 スイスと日本の小麦事情
新着情報#134 小麦価格高騰して大変ですけど・・・ASW価格の推移
新着情報#102 これからの日本農業
新着情報#095 小麦の自給率とその価格

で、簡単にまとめておくと、2007年初めまでの事情は次のようになっていました。
①日本での小麦消費量は、国産小麦(内麦)90万㌧、輸入小麦(外麦)500万㌧、併せて約600万㌧。
② 小麦の国内販売価格は外麦が約50円/kg、内麦が40円/kg。
③ 小麦の生産コストは、外麦が20~30円/kg、内麦が150円/kg。

これを見てすぐにわかることは、内麦の生産コストは異常に高いことです。小麦に限らず日本は狭小な地形が多いため生産効率が悪く、農作物はすべて割高になります。しかし内麦の販売価格は生産コストよりもずっと安いので、ここで補助金がかなり投入されているのがわかります。

で、この補助金の原資はどこからきているかといえば、アメリカ、カナダ、オーストラリアから輸入している外麦を、実際よりも高く売ったその売却益です。つまり小麦の問題は、小麦の世界の中で解決しましょうという考えです。このあたりの事情に、興味ある方は新着情報#095をご覧ください。

こういう状況の下、それまでは多くても一年に一回だった外麦の販売価格は、「国際価格をよりきめ細かく反映させるため」という理由で、昨年から年二回、4月と10月に改定されることになりました。ただ、どういう因果か、実施時期がちょうど穀物相場の暴騰時期と重なり、$5/b(ブッシェル)だったものが最高$14/bまで上昇したので、現場は大混乱しました。

現在の外麦の価格決定ルールは「改定月の3ヶ月前までの8ヶ月間の平均」となっています。例えば次回は2009年4月ですが、このときの価格は、2008年6月~12月と2009年1月の8ヶ月間の買付価格の平均ということになります。このルールはその専門の担当者が何年にもわたって検討を重ねた結果できたもので、8ヶ月間というかなり長い期間の平均をとる理由は、急激な変化を避けるためです。しかしそれにも拘わらず、今回は価格が想定外で乱高下したために、国内価格と国際価格がかい離する結果となりました。

現行方式では8ヶ月間の平均をとるために、国際価格が暴騰しても国内価格は直ちに同じだけ上昇することはありません。これは消費者にとってはいいことです。しかしその間の差損は、農水省が肩代わりすることになります。つまり農水省が緩衝材になってくれるわけです。ただこの制度だと、今度は逆に価格が急落しても、同様に8ヶ月間の平均をとるので、なかなか下がらず、これが現在の状況です。消費者としては、「値上げはできるだけ遅らせて、値下げはできるだけ早く」が理想ですが、ひとつの方式で、そんな虫がいい話はなかなかありません。そこで急遽、色んな方々の意見を聞きながら、もう少し良いルールができないか現在模索中です。そして近々新しいルールが決定されることになっています。

またここでは触れませんでしたが、それ以上に深刻な問題は、現在内麦と外麦が、違う価格決定ルールを採用していることです。そのために両者の価格が適切に反映されているとはいえず、そこで新たな問題が起きています。これもまたいずれ機会があればご紹介したいと思います。