#139 激変する世界の食料事情と日本農業のこれから

先日、ローカル放送で最近の小麦価格の急騰をテーマにした特集番組がありました。内容をかいつまんで説明すると、次のような展開であったと思います。

①小麦の高騰により小麦粉価格が上昇している 
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②うどんの値上げに踏み切る店が相次いでいるが、このままやっていけるかどうか、誰も不安で頭を抱えている。 
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③県内産小麦粉を利用して品質の高い小麦粉を作る動きが活発化している。

この番組、目を皿にして見ていたわけでないので、こちらの理解が足りないかもしれないけど、ちょっと流れについていけないところがありました。①→②は事実に相違ありません。また香川には「さぬきの夢2000」をいう優良銘柄があるので、③そのものについては、確かにその通りだと思います。ただ、②→③の流れがどうしてもしっくりきません。ディレクターの意図しているところは、「原料の小麦粉が割高になっても、それ以上の付加価値をつけることによって、この危機を乗り越えよう」という図式かなともとれます。でもドラマならこんな展開もありかなと思うけど、問題はそんなに単純ではないし、業界に身を置くものにとっては、ちょっと違和感を覚えました(奥歯に大きな物が挟まったような言い方しかできないことに、忸怩たる思いが・・・)。

それよりも私たちが直面している喫緊の課題である、世界的な穀物の高騰問題、それに関連して、現在日本農業が抱えている問題点、矛盾点、危機感などをわかりやすく説明するのが自然な流れだと考えます。世界の穀物供給がひっ迫し、価格が上昇している現在、国産小麦を増産して自給率を上げる絶好のチャンスであるにもかかわらず、なぜそれができないのか、踏み込んでの説明を期待していました。「私たちは、毎日当たり前のようにお腹一杯食べているけれど、実はそうではなく、もう少し真剣にこれからの日本の食糧事情を考えないといけない時期にきているんだよ」という流れを勝手に思い込んでいただけに少し残念でした。

さて現在の日本が置かれている食糧事情について、農水省の塩川白良氏が「激変する世界の食糧事情と我が国の対応方向」というタイトルで、ある雑誌に寄稿されていました。興味深くまた説得力のある内容だったので、以下例によって個人的に興味をもった部分を中心に、独断で要約してみました。

  1. 最近の世界の食糧事情は、需要が供給を上回る傾向にあり、この状態は今後しばらくは変わらないだろう(理由については、新着情報#96#102とかなり重複するので割愛)。
  2. 日本は現在、強い経済力に支えられ、穀物価格が上昇しても購入することができる。しかし、中国、インドといった新興国が力をつけてきたり、逆に日本の経済力が低下したりすると、食料の争奪戦にに負けるかもしれない(このことを「買い負け」といいます)。つまり経済力が弱いために、高い農産物を買えなくなる状況が生じることです(現在は、アフリカ、中南米などがこれにあたります)。
  3. またたとえ強い経済力が維持できたとしても、農産物生産国が輸出しなければ、購入することはできない。実際、現在はロシア、ウクライナ、アルゼンチンといった国々は規制している(普通に考えて、自分がひもじい思いをしてまで、他人にパンをあげる人はなかなかいません)。
  4. かつては600万㌶以上あった日本の農地は467万㌶にまで減少している。一方、現在日本は海外から1245万㌶に相当する農産物・食料を輸入している。
  5. 人口が日本とほぼ同じナイジェリアと比較すると、日本は小麦で2倍、とうもろこしで6倍、大豆で11倍の穀物を消費しているが、これも強い経済力のお陰である。

以上が、印象に残った点です。簡単にいうと、私たちが豊かな食生活を満喫できるのも、海外からの輸入する農産物のお陰であり、これらをすべて国内で賄うことが不可能であることは耕作面積ひとつ考えて明らかです。また5月11日の日経新聞には、水の消費量に着目し、食料を全て自給するのは不可能だとの記事がありました。つまり、農作物を生産するには水が不可欠ですが、もし輸入農産物を全て自給するとなると627億㌧もの農業用水が必要になり、これは日本で利用できる灌漑(かんがい)用水の572億㌧を多きく上回るので、農業用水一つとっても自給は無理であることがわかります。

日本は狭小な島国なので耕作条件に劣り、効率が悪く、よって農産物の価格競争力がありません。また、全需要を自給しようにも耕作面積や灌漑用水が不足しているため、物理的にも不可能です。しかしこのまま放置しておけば、自給率が更に下がるのは自明です。現在は経済力に支えられ、「買い負け」の事態には至っていませんが、これがいつまでも続く保障はありません。国際競争力のない日本農業は、ガソリン税や道路特定財源などに習って、食料税、農業特定財源を導入して自給率をあげる必要があるのか?。この難問、戦後60年かかってまだ解けていません。