#128 鳴門うどんと讃岐そば

前回の鳴門うどんツアーで仕入れた情報と「鳴ちゅる」を基に、鳴門うどんの特徴を独断でまとめると次のようになりました:
①加水率は50~57%と高い。
塩はほとんど使用しない、もしくは数%とかなり薄い。
③わざとゆで置きした麺を使用する
④山芋(自然薯)や卵をつなぎに使用することがある。
⑤手打ちである。
⑥どちらかといえば細麺で縮れている。
⑦生地の熟成時間は1~12時間、つまりまちまちである。

でも①の加水率(新着情報#64)は、いくら何でもちょっと多すぎるような気がします。さぬきの手打ちうどんは、50%加水が標準ですが、塩度が10~13%程度なので、小麦粉1kgに対する塩水500gの内訳は、真水440gと塩60g見当になります。一方、鳴門うどんは塩をほとんど使用しないので、加水率50%としても、真水が500g近くとなり、これだけの水を練り込むとかなり軟らかくなってしまいます。

実際、気温10℃にて、塩をほんの気休め程度入れた塩水を55%加水で練ったところ、パン生地のようになりました。これだと麺棒を当てただけでいくらでも延びて、ワンタンのようなうどんがゆであがりました。次に塩度3%の加水率50%でやってみると、柔らかいなりにもなんとかうどんになり、このあたりが限界かなと考えます。だから塩度にもよりますけど、加水は45~50%程度で充分ではないかと。

この塩度3%の加水率50%のうどんは、ソフトで優しく、いい感じにゆであがりました。また翌日のお昼には、軽くてサラサラとお腹に入り、美味しさも増したように感じます。更にはその夜になると、サラサラ度は益々アップして、食後でも全然抵抗なく、おいしくお腹の中に消えていきました。「うどんは別腹」とは正にこのことを言うんじゃないのかと。

熟成時間については、かなり幅がありますが、そんなに長時間はかける必要はないでしょう。理由は、水が多いほど、また塩が少ないほど(新着情報#111)熟成は速く進むからです。麺がちぢれる理由はいくつかあると思います。先ず、手打ちであるので、グルテン繊維が全ての方向に網目状に広がること。次に多加水であるため、生地が柔らかくなり、鍋に放り込まれるまでに、変形しやすいこと。それに塩が少ないのでグルテンの結合力が普通のうどんに比べて弱いこと云々。

で、あれやこれやと考えているうちに、鳴門うどんは讃岐そばに作り方がそっくりであることに気づきました。もっとも、讃岐のそばは、更級そばのようにシャキッとしたやつではなく、ぼそぼそとした食感のいわゆる「田舎そば」です。うどんよりも細いけど、更級そばよりはずっと太く、専らかけそば専門です。また原料配合もニ八蕎麦や十割蕎麦ではなくて、小麦粉:そば粉=2:1あたりが標準なので、そばというよりも「そばうどん」と言うべきかもしれません。でもこれ以上そば粉を増やすと、なんか「もったり」するし、減らすとそばの風味が薄くなるので、このあたりがさぬきでは黄金分割比として定着しています。

肝心の鳴門うどんとの類似性ですが、作り方はほとんど同じです。強いてポイントを挙げるなら、多加水、低塩度、そして「ゆで置き」の方が好まれるところかな。つまり、ゆでたてよりもゆでて、一晩経ったそばの方が、ぷりぷりして、口当たりがよく、つゆがよく絡んで(いるようで)旨いのですまもるちゃん(新着情報#127)は、この真実を宮武のおっちゃんから聞いたそうですが、さぬきの随筆家・山田竹系先生(97位にランクインされています)は、その著「随筆・さぬきうどん」の中で次のように述べています。

「うどんは打ちたて、そばは宵ごし」というのは、ただしさぬきだけの言葉である。関東では、むろんそばも打ちだちで、打ってから三時間もしたら食べられるものではないということになっている。しかし、このさぬきの宵ごしそばは、いわれてみると、なかなかうまい。昨日打ったそばは、もうかたくなって、ピンピンしている。それを熱い湯でぬくめて、少しから目にしょうゆを入れ、油あげなどで、グツグツと煮て、細く切ったユズの皮なんかをふりかけて食べる山家のそばは、まこと郷愁をそそるおふくろの味である。あの、冷たく重い東京のそばのうまさとは対照的である。

 

個人的には、更級そばは、切れがよくて大好きなので、上京の折にはほとんど食べています。そしてこの讃岐そばも好きだし、鳴門うどんも同様です。だから「更級そばとさぬきそばはどっちがおいしいか?」とか、「さぬきうどんと鳴門うどんは、どっちが上か」という類の話は、「みかんとりんごはどちらが美味しいか?」みたいなことになってきて、あまり意味がないような気がします。つまり単純にただ麺が好きなだけかなと。