#114 水回しと足踏みの役割

グルテンは、小麦粉、水、そして「捏ねる、もしくは練るという作業」の3つの要素によって作られます。どれが欠けてもだめです。小麦粉だけをいくら捏ねてもできないし、小麦粉に水をかけるだけでもだめです。小麦粉に水を加え、捏ねることによって、小麦粉の中のグリアジンとグルテニンが相互作用し、粘弾性のあるグルテンの網目構造をつくります。うどんづくりにおいては、このグルテン形成をどのタイミングでおこなうかが、一つのポイントになります。

うどんづくりの工程は大まかには次のようになります(詳細はこちらをどうぞ)。
①水回し(混合)→②足踏み(捏練)→③寝かし(熟成)→④延ばし(圧延)→⑤切る
ここで注目してほしいのは、①水回しには、ちゃんとした目的があるということです。つまり、小麦粉と塩水とを均一にミキシング(mixing)、すなわち混ぜ合わせ、次の足踏み工程がうまくいくように、することです。

水回しが完全におこなわれると、全体が米粒ほどのそぼろ状になりますが、この状態ではグルテンはまだ形成されていません。小麦粉と水はあっても、まだ「捏ねる」という動作がないからです。正確に言うと、小麦粉や塩水の抵抗により、「捏ねる」効果が生じて、少しのグルテンができてしまいますが、本来の目的ではありません。水回しは、あくまで塩水を均一に小麦粉の隅々にまで浸透させることが目的です。

では、すべて米粒ほどのそぼろ状に揃ったとして、水回しが完了したかというと、実は「まだ」です。というのは、塩水は、小麦粉の隅々にまでは、まだ完全に浸透しきってないからです。できれば、この状態で乾燥しないように少しの間、放置するのがベストです。これを「そぼろ熟成」または「予備熟成」といいます。これにより、初めて水回しが完全に終了します。この予備熟成の効果がもっともよく体感できるのは、気温の低い冬場とか、たんぱく質の少ない内麦粉を使用するときです

水回しを雑にすると、隅々まで塩水が行きわたらないので、生地をまとめるために、いきおい加水が多めになってしまいます。タンパク質の少ない内麦粉の場合、直後はちょうどよい塩梅でも、熟成している間にだんだんと軟らかくなり、後でだれてしまうことがあります。こうなる理由は、一言でいうと「内麦の水分に対する緩衝力の弱さ・新着情報#90」によるものです。しかし、水回し、予備熟成をきちんとすれば、塩水が均等に浸透するので、次の「足踏み」がばっちりできます。その結果、理想的なグルテン立体網目構造ができ、少々たんぱくの少ない内麦粉でも、切れないしっかりした、そしてもっちり感のあるうどんができます。

以上のように、「水回し」と「足踏み」とは役割分担が異なりますが、実際の現場では、ごっちゃになっている場合がよくあります。特に製麺機に使用していると、ミキサーの中に小麦粉を入れ、そこに塩水を「じゃばじゃば」入れながら攪拌しますが、これは完全に「水回し」工程が省略されています。塩水が「ばしゃ」っとかかったところは、「びしょびしょ」で、一方かからなかったところは、小麦粉のままです。でも機械の力で無理やり、混ぜ合わせるので、最終的にはひとつの生地にまとまりますが、余り良い方法ではありません。

私たちは、意識することなく混ぜるのも、捏ねるのも、すべてミキサーとよんでいますが、本当はミキシング(mixing)とニーディング(kneading)とは厳密に分けて考えるべきですミキシングは単に「混ぜ合わせる」動作を指し、ニーディングは「捏ねる」ことです。「水回し(混合)」が完璧にできることにより、水分が均一になり、これを「捏ねる」ことによって最適なグルテンの網目構造ができます。でも水回しが不十分だと、水が多くかかったところは、強いグルテンができないし、水がかかってないところは、グルテンができません。何事も最初が肝心なように、うどん作りにおける「水回し」は大切です。以上を簡単にまとめると次のようになります。

①水回しの目的は、小麦粉と塩水とを均一に混ぜ合わせることであり、この工程ではグルテンはできない。

②水合わせが完全におこなわれても、つまりきれいなそぼろ状になっても、まだ塩水は完全には小麦粉の隅々にまでは浸透いていないので、この状態で暫く放置するのが望ましい。これを「そぼろ熟成」または「予備熟成」というそぼろ熟成をおこなうことによって、うどんに艶と「もっちり感」がでてくる。

ミキシング(mixing)とは、混ぜ合わせること、ニーディング(kneading)とは捏ねることで、両者は区別する必要がある。