#112 グルテンについて・・・その①

小麦粉に少量の水を混ぜて、捏ね続けると一つの塊になります。これをぬるま湯につけて暫く放置し、水で揉みながら洗い流してやると、でんぷん質は流れ出し、チューインガムのようなグルテンだけが残ります。この事実は1728年に北イタリアの街、ボローニャのベカーリ(Beccari)によって最初に報告されました。これは歴史的に見て、比較的純粋な形で抽出された最初のタンパク質の一つです。ただ、当時はその化学的成分も定かでなく、そもそもまだ「タンパク質」という言葉自体もなかった時代のことです。

その後、研究が進むにつれこのグルテンというのは、どうやら二つの種類のタンパク質からできていることが判り、これらは、1890年代にオズボーン(Osborne)によって、グリアジン(gliadin)とグルテニン(glutenin)と呼ばれるようになります。このとき二つを分画するのに使用されたのが70%エタノール溶液で、これに溶けるのがグリアジン、そして溶けずに残るのがグルテニンです。

植物タンパク質の分類については、この溶解性の違いを利用するのが一般的な方法です。つまり、「水には溶けるけど食塩水には溶けない」とか「食塩水には溶けるけどアルコール溶液には溶けない」というふうに違う溶液を用いてタンパク質を分画する方法です。概略を表にすると次のような感じになります。小麦粉には80種類以上のタンパク質が含まれていますが、この分画方法により5種類に分類されることになります。

 

溶解性による植物タンパク質の分類(Osborne、1924)

タンパク質の種類

小麦タンパクに含まれる割合

分画方法

アルブミン(albumin)

卵白

15%

水溶性

グロブリン(globulin)

3%

水には溶けないが中性塩溶液に溶ける。

プロラミン(prolamin)

グリアジン

33%

水、中性塩溶液には溶けないが、50%程度のアルコール溶液に溶ける。

グルテリン(gulutelin)

グルテニン

16%

水、中性塩溶液、アルコールには溶けないが、薄い酸、塩基に溶ける。

残渣タンパク質

33%

上記のどれにも溶けない。

 

ところでなんでわざわざこんな面倒くさい表を持ってきたかというと、タンパク質の名前には、グルテンとかグリアジンとか、グル○○○といった紛らわしい言葉が多く、少し整理しておきたいと思ったからです。この表から判るように、④に分類されているグルテリンというのは、タンパク質の種類であって、固有のタンパク質の名前ではありません。つまり「水、中性塩溶液、アルコールには溶けないが、薄い酸、塩基に溶ける」タンパク質は、すべてグルテリンという範疇に分類され、グルテニンはその中のひとつだということです。だからグルテリンとグルテニンって、響きはとっても似ているけど、全然次元の異なるものになります(別に大した問題ではありませんけど)。

さてここで話が元に戻りますが、小麦粉に含まれるタンパク質の中で特に重要なものがグリアジンとグルテニンです。理由は明らかで、この二つが小麦粉特有のグルテンを生み出すからです。このグルテンのお陰でゆでる前のうどんは、切れずに繋がっておくことができます。つまりグルテンの力によって、私たちは小麦粉の生地を、好きなように成形することができるのです。このグルテンは小麦にだけ含まれていて、他の穀物にはありません。例えば、ライ麦にはグリアジンというたんぱく質はありますが、グルテニンがないので、グルテンはできず、小麦粉にように自由に成形することはできません。小麦粉が世界中で、これほど普及した理由は、その味の良さもさることながら、この作業適性の良さも大きく貢献しています