#111 うどんに塩を入れる理由

塩はほとんど全ての食品に含まれています。うどんも例外ではなく、というより、うどんの原材料は、小麦粉、塩、水しかないので、塩の役割はことさら重要です。一般に塩の効用といえば、食味の改善とか保存期間の延長なんかが思いつきますが、うどんにとっては、それ以外に様々な役割があるので、簡単に整理してみました(分類項目は、「小麦・小麦粉の科学と商品知識」(長尾精一著)を参考にしました)。

①グルテンを引き締める
さぬきうどんといえば、多くの人はコシを連想しますが、このコシの基になるのがグルテンです。小麦粉には10%前後のたんぱく質が含まれていて、これが水と一緒になることによって、小麦粉特有のチューインガムのようなグルテンが生まれます。生地を足踏みすることによって、このグルテンが縦横無尽に網の目状に広がり、生地を支えます。そして、塩にはこのグルテンを強く引き締める性質があります。
つまり気温の高い夏は、生地がだれやすくなるので、塩を多くし、逆に冬場は生地が硬くなるので、延びやすいように塩を減らします。土三寒六常五杯という口伝は、お茶碗一杯の塩を夏場は三杯、冬は六杯、そして春秋は五杯の水で割りなさいということです。

②酵素の活性を抑制する
小麦粉には色んな酵素が含まれていて、でんぷん質やタンパク質を分解します。一般にはこの酵素の働きによって、「うどんのうま味」が増すと言われていますが、その詳しい仕組みはまだよくわかっていません。塩には、この酵素の働きを遅らせる効果があるので、塩を多く入れたら熟成時間もそれに応じて長くした方がよいということになります

③ゆで時間の短縮化
うどんがゆであがるということは、お湯がうどんの中に入り込み、でんぷん質が糊化してうどんが膨れるということです。だから多くの塩を含んでいれば、それだけ早く塩がお湯の中に溶け出し、お湯と置換するので、早くゆであがることになります

④食味の向上
なぜか仕組みはよくわかりませんが、人間にとってはほんの少し、しょっぱい方が美味しく感じます。

⑤保存期間の増大
水分活性が小さくなるので、それだけ雑菌が繁殖しにくく、保存性が向上します塩漬けとか佃煮なんかは保存食としての代表例です。

⑥乾燥の防止
乾麺は、生うどんに含まれている水分を14%程度にまで乾燥することによってできます。塩には乾燥を抑える効果があるので、急激な乾燥を防ぎ、乾麺の乾燥をやりやすくします。というのは、急激に乾燥すると、表面は乾いても中心部分は生のままなので、この水分較差によって生地がねじれ、割れる原因となります。実際、水だけで生地を練り、うどんにして乾燥するとあっという間に表面だけが乾いてしまい、うどんが反り返りうまく乾燥できません。逆に、塩を多くし過ぎると、今度はなかなか乾かないので、これもよくありません。乾麺の製造には適度な塩が必要だということになります。

このように塩はうどんにとって様々な働きがあり、うどんとは切っても切れない関係にあります。蛇足ながら、「うどんには塩分が多く含まれているので身体によくないのでは?」といった質問をよく受けます。うどんに塩が含まれているのは事実ですが、ゆでることによって90%以上の塩分は溶出するので心配することはありません。ただゆで湯が少ないとなかなか塩がでてこないので、このときはうどんがしょっぱくなります。よって、うどんはできるだけたくさんのお湯でゆでましょう(100g当たり1㍑以上)。またおつゆには塩が含まれているので、塩分を控えている方は、丼の底が見えるまでおつゆを飲まないようにしましょう。