#086 灰分の色々な量り方(乾燥状態 vs. 14%水分)

灰分とは、小麦粉を高温で燃やしたとき、燃えずに残った灰の重量であるといいました。この灰分は小麦粉のグレードを表す一番重要な指標で、うどんの色に大きく影響します。例えば、特等粉に分類される灰分0.35%の小麦粉というのは、100gの小麦粉を燃やすと、その灰が0.35g残るということです。一方灰分0.5%程度の2等粉になると、その差は僅か0.15gですが、その差はうどんにしたら、一目瞭然です。前者は、食欲をそそる淡黄色で艶があるのに対し、後者は表面のざらついた、くすんだうどんになります。「覚えてない」という方はもう一度こちらをどうぞ(新着情報#54)。

一方、小麦粉に含まれる水分は12~14.5%程度であるといいました(新着情報#83)。季節、小麦の銘柄にもよりますが、挽きたての小麦粉の水分は14~14.5%程度です。また紙袋に入っている小麦粉の水分は、時間と共に少しずつ減少します。湿度、気温にもよりますが、簡単に言うと小麦粉は放置しておくと、最終的には平衡水分12%程度にまで低下します。

では、ここで改めて灰分と水分との関係について考えてみます。今、水分14.0%、灰分0.350%の小麦粉Aが100gあるとします(よって、この中に含まれる灰分は0.350g)。これが2ヶ月経過し、98gになったら、このときの灰分はいくらになるか考えてみてください。減少した2gは小麦粉の水分が蒸発したので、灰分の量は0.350gと変わりません。つまり98gの中に灰分.0350gが含まれているので、この時点での灰分の割合は、0.350÷98×100=0.357%となり、元の小麦粉よりも少し高くなります。

今度は小麦粉Aを100g、湿度の高いところに放置したら、吸湿して101gになったとします。すると小麦粉101g中の灰分が0.350gなので、その割合は、0.350÷101×100=0.347%となり、元の灰分よりも低くなります。一言でいうと、小麦粉が乾燥すると灰粉は高くなり、吸湿すると低くなります。つまり同じ小麦粉でも、その水分によって灰分が高くなったり、低くなったりします。で、「小麦粉の水分によって、灰分値がころころ変わったんではかなわん」というときには、もっと正確な測定方法もあります。ここでその主要な計測方法をまとめておくと:

①単純な灰分値
これは小麦粉の水分は考慮せずに、単純にそのまま小麦粉を高温で燃焼させ、その残った灰を測定する方法です。先ほどの例のように、この方法であれば、同じ小麦粉でも製粉直後の水分が多いので、それだけ灰分は少なめになります。普通、私たちが「灰分」というときは、単純にこの方法をさします。簡単でわかりやすいですけど、水分差がありすぎると問題があるかも。

②14%水分換算の灰分値(ash content on a 14% moisture basis)
水分によるぶれを解消する一つの方法がこれです。標準的な小麦粉の水分は14%であると考えて、どんな水分の小麦粉でも14%水分に換算して灰分を表示しようという方法です。アメリカではこの「14%水分での灰分」が標準的に採用されているようです。因みに、水分12%の小麦粉の灰分をそのまま量ったら0.400%のとき、この小麦粉の14%水分換算の灰分は0.391%になります。頭の体操としてやってみてください。

③乾燥状態での灰分値(ash content on a dry matter basis)
水分に影響されないもう一つの方法で、これは小麦粉を乾燥状態に換算して、灰分を求める方法です。こうすれば、小麦粉の水分が12%でも13%でも、水分に関係なく、正味のところでの比較できます。具体的にどうするのか、上記の小麦粉Aで計算してみます。元の小麦粉Aの水分は14.0%なので、これは小麦粉100g中に水分14gが含まれています。これを全部蒸発させてやれば、残りは86gになりますが、この中にも灰分は0.350g含まれています。つまりこの時点での灰分は、0.350÷86×100=0.401%となります。

この乾燥状態での灰分値は、主としてヨーロッパで用いられているようです。これは非常にかっちりしていて良いと思いますが、日本では0.350%のものが、ヨーロッパでは0.401%と表示されるということは、同じ小麦粉でもグレードで1等級位違うので注意が必要です。ヨーロッパでは、日本と比べて灰分の多い小麦粉でパンを焼いていると聞きますが、計測方法が違うのなら、私たちが思っているほどの違いはないのかもしれません。

このように一口に灰分といっても、色々計測方法があります。でも普通は、①を使用して一向に差し支えない、というか少なくともこの辺りではそれしか使っていません。そもそもこのような面倒くさい問題がでてきたのは、小麦粉に含まれる水分の違いによって、見かけの灰分が多くなったり、少なくなったりするからです。簡単にまとめておくと、上記3通りの結果の関係としては、「① ≒ ② < ③」のようになります。蛇足ですがこの3通りの考え方は、灰分だけでなくたんぱく含有量についても同様に適用できます。

灰分とは全然関係ありませんが、水分の違いが大きく影響するする例として、生うどんと干しうどんの関係があります。それぞれ100gをゆでると、どちらも水を吸収して重くなりますが、生うどんが200gにしかならないのに対し、干しうどんは300gにもなります。これはゆでる前の、生うどんの水分が40%程度であるのに対し、干しうどんは14%しかないので、それだけ多くの水を吸収できるからです。だから同じうどん100gといっても、干しうどんなら結構食べた気がするのに、生うどんは物足りなく感じます。